日々のビジネスの徒然に・・・、今をつくったあの夜のことは、私の神話。
自分でオフィスを借りて、いざマーケティング・スタッフビジネスを始めたからといって、すぐに多くのプロジェクトに参加させてもらえるようなものではない。地道に、自らの存在を売りながら、一歩一歩を全力で処理し、仕事の完成度と精度の高さを知ってもらうような毎日を過ごしていたのが40年ほど前の自分の日常であった。
オフィスを開設して2年ほどたった折に、小さな一歩を大きな一歩に替えるプロジェクトのテーマを頂いた。市場環境の変化をビジュアルでまとめるといったものであった。資料を解析し、研究者やマスコミの方々にインタビューもし、実に多様な情報を整理する機会を得た。
ここで(自分自身が)問題としたのは、ビジュアル情報の提示の仕方である。今のようにカラー・コミュニケーションが当たり前になっている時ではない。情報として集めた写真を使って、その複製を切り取って報告書に貼り込むことが最も美的に取りまとめることができると分かった。
しかし、いざ納品の前日になり、急遽ハードプリント250部を翌朝までに納品という指示がきた。100頁近い報告書で、写真の箇所も20か所を優に超えていた。ということは、ほぼ5,000枚の写真を貼り付ける作業があるということになる。かなり無理に近い。しかしやらねば・・・始まらないし終わらない。
私と、その年からアシスタントとして加わってくれた女性との二人で、黙々と写真の貼り込みを続けて時が刻まれていった。既に22時。支援をしてくれている女性スタッフを帰宅させねばと気持ちが焦る。一方で、なかなか250部の報告書完成までの道のりはありそうだ。あきらめにも似た気も湧き上がり、作業を続けると言ってくれているアシスタントを帰宅させた。いよいよ一人の戦いである。
眠気も迫ってくる。気持ちも崖っぷちのような焦燥感が襲ってくる。いよいよ日が替わり深夜である。時計は2時に近かったと記憶している。突然の電話。今のようにメールもない時。いたずらであろうかとも思い、また小さな子供を抱えた自宅からかもと思って受話器。数時間前に帰宅させたアシスタントの声である。励ましかと思ったところ驚きの声が。「今オフィスのビルの前に居ます。鍵がかかっていて入れません。開けて下さい」。すぐに階下に行き開錠。手にコーヒー牛乳とゆで卵を持った彼女が立っていた。作業をしながら、私が自分の好きな食べ物として語ったものの一つであった。
気の利いた言葉も見つからずに、一言二言語ったのちにまた黙々とした作業の再開である。そろそろ、外の道に車の音が多く聞かれるようになってきた。
朝5時を過ぎただろうか、250部の報告書が無事に完成した。彼女の方を見て、ただただ見ていた。言葉が出なかった。じっと見ていた。
その時の光景が、私のその後をつくっていったように、今も思っている。力を借り、質を高め、落とすことなく高位に維持する。約束した時間は必ず守る。その裏側で、徹夜をしようが無理をしようが、われわれの仕事は、成し遂げた結果がすべて・・・。心に深く刻んだのが、その時であった。自分のビジネスライフの歴史の始まりでもあった。
その折に言葉にもならぬ支援をしてくれた私のアシスタント。まさにビジネスライフの伴侶である。その彼女が、今春、早世してしまった。あの夜のことが、私の中では神話の世界になったように感じている。
ビジネス行動では、自らの原点になっている神話的な瞬間がある。
Management Partner Staff
清野裕司