第11話:表現の違いは顧客が判別する尺度になります
月に一度のペースで床屋に行きます。床屋の主人は、私と同世代。手を動かしながら、いつとはなしに昔話をしていることが多くなります。幼い頃に見た映画の話であったり、互いの記憶を辿った街並みのことであったり、約1時間の会話があっと言う間に過ぎていきます。
その間に、店をのぞく人が何人もいます。床屋の場合には作業の段取り手順があるので、どこかの手順を抜くでもしない限り、人によって圧倒的に早く終わるということはありません。どうしても順番が来るのを待つことになります。子どもの頃は、漫画雑誌を読む絶好の時間でもあったのですが、今はどうも落ち着かない時間になってしまいます。そのような折、床屋の主人は待ち時間を、表現の違いでさりげなく伝えています。
現在整髪中の客が最終工程に入っている場合には、「少しお待ち頂けますか」と、「少し」を使った疑問形で投げかけます。中間工程くらいの場合には、「少々お待ち頂くことになります」と、「少々」をつけた説明文。さらに数人が待っている場合には、「かなりお待ち頂くことになります」と、「かなり」を使って謝罪的な物言いになります。その使い分けには、明解な時間は一言も言っていません。しかし、言葉を聞く客の方が、自分なりに段取りを予測して時間計算をしているのです。
短時間作業を売りにする床屋も、街角には多く見かけるようになりました。時を売ることも一つのサービス・マーケティングの要因です。ただ個人的には、床屋の主人のような「言葉の時間」が尺度になった空間で、しばしの時を過ごしたいと思います。そんな折は、人間性を持ったマーケティングを感じる時でもあります。
清野裕司
株式会社マップス
〒102-0083/東京都千代田区麹町4-3・4F
T:090-8793-9916
E: seino@mapscom.co.jp
URL: https://maps-staff com