マーケティングは「しめる」志と行動を忘れないことです。
人が出会って握手をする。その折に、お互いを認め合い、親密度が高ければ、それだけ握る手に力がこもって、まさに「締める」状況になると言います。
「しめる」のは、力の掛かり方でもあります。愛しい子どもを親は「抱きしめる」でしょう。めったに口にする機会にめぐり合わない食べ物は、この時とばかりに「噛みしめ」て味わおうとします。新しい道なき道に入り込めば、一歩一歩を「踏みしめ」ながら進み行く姿勢を見せるはず。そこには、人がある目的に向かって、しっかりと力を込めて邁進する、雄々しい姿すら感じさせるものです。
しかし、どうも最近の社会の風に「しまり」がないように感じます。力強さを実感する場面に乏しいのです。何となく、柔らかに手を結ぶような関係に出会います。一度決まった提携話が、お互いの利害再調整の結果、水に流れてしまうようなケース。お互いのトップは、しっかりと相手の目を見て、その手を握りしめたのでしょうか。親のいうことを聞かないからと、感情的な幼児虐待を繰り返してしまう親。わが子を、しっかりとその胸に抱きしめることをしたのでしょうか。噛みしめようにも、端から細かく刻まれた肉や野菜を食することが多くなった現代人にとっては、味を噛みしめる機会も乏しくなったかもしれません。一時流行った、厚底靴をはく若者には、地面を自らの足で踏みしめている感覚は育ち得ないかもしれません。
関係性マーケティングが言われる現在の環境にあっては、改めて顧客との力強い絆を結ぶことが求められています。企業は、顧客一人ひとりと、どれほどの力を込めて、その手を握りしめているのだろうか。気をひきしめて、今一度自問自答してみたいと思います。
清野 裕司
株式会社マップス