旬刊独白63:「さん」付けは、時と場をわきまえないと単なる記号になる。

新聞折込チラシの中に、小さな店のオープン案内を見て思ったこと。隣の駅の近くで、略図が掲載されている。駅前の商店街を抜けたCVSの少し先。しかし、その地図が何とも見にくい。サインになる他店の表記のわかりづらさが原因のようだ。CVSの固有名詞に「さん」付け、飲食店の店名にも「さん」が付してある。「セブンイレブンさん」「中華○○さん」、角にあるのが、ビューティサロンの「○○美容室さん」。他者に敬意を表したつもりだろうが、そのことに、どれ程の意味があるのか疑問である。

確かに新しい店にとってみれば、その地域の新参者であり、周囲に気を配るという考えもあるのであろう。しかしそれは何のため、誰のためなのか。チラシそのものの目的は、ご近所への気配りではなく近隣住民への挨拶、顧客化へのお願いであるはず。してみると、敬称をつけるべきは来店頂いた顧客に対してではないのか。

TV番組を見たり若者の会話を聞いていても、時に「OLさん」という言葉を耳にする。Wikipediaによれば、「OL」とは“「女性の会社員や事務員」を意味する和製英語”とある。そのまま日本語で言えば「事務員さん」になる。「魚屋さん」「八百屋さん」「歯医者さん」のような、店や職業の種類に「さん」を付けて固有名詞に近づけて親近感や敬意を表現することは昔からあった。ただ、いかに一般名詞に「さん」を付けても、た「OLさん」では固有名詞化することはない。ましてや、敬意を表する想いは感じさせないもの。「OLさん」があるのであれば「サラリーマンさん」と「さん」を付けても良さそうだが、ごろが悪いのか、そのような言い方に出会ったことはない。

その昔、夜の街では道行く人を捕まえては、誰かれ構わず「社長さん」などの呼び込みの声が聞かれた。してみると「OLさん」も、さしたる考えも無いままの普通名詞かと思える。

日本語の乱れといったレベルではなく、時と場にかかわりのない日本語が氾濫している。自分自身は、自らのレベルで、時と場をわきまえた日本語を発していきたいと思っている。

Management Partnar Staff
清野裕司

投稿者:

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一刻一歩に最善を尽くそうと今もする。変わる鋭さと変わらぬ頑固さがある。

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